“scenes” “requiem” “sanctuary”

 

 

 

 

1st album “scenes” が生まれるまで・・・

2015年12月、森岡書店銀座店へ行きました。店主の森岡督行さんが上梓された『本と店主』と、その表紙の絵を手掛けた平松麻さんの展示でした。

現地にはお二人ともいらっしゃって、当時すでに顔見知りだった森岡さんが、初対面だった平松さんに私を紹介してくださいました。

平松さんが、私のヴァイオリンをぜひ聴いてみたいとおっしゃってくれたので、翌日楽器を持って再訪しました。

「展示されているひとつひとつの絵画を見ながら、インスピレーションで演奏してほしい」というリクエストを平松さんからいただきました。初めての体験でしたが、即興で演奏し、平松さんやその場にいらっしゃったお客様に喜んでいただけました。

翌年5月、再び森岡さんから、「松本で開催される六九クラフトストリートに初めて出店し、平松さんの絵画を展示するのだが、そこで演奏してもらえないか」というお話をいただきました。六九クラフトストリートは、木工作家・三谷龍二さんとデザイナー・皆川明さんの主宰で毎年開催されているクラフトフェアです。

演奏をした日の夜、関係者の方々の打ち上げに交ぜていただきました。その時、同じくイベントに出店されていたデザイナー・猿山修さんと出会いました。

自宅で録音をした10分程度のCD-Rを猿山さんにお渡ししたところ、その音源をとても気に入ってくださり、ゆっくり話をしませんかとメールをいただきました。数日後、当時麻布十番にあった猿山さんのお店に伺いました。そこで、これまでの来歴などをお話している中、良かったら一緒にCDを作りませんかとご提案をいただきました。猿山さんは、個人で音楽レーベルを運営されており、ご自身もコントラバスの演奏や作曲を行っています。

9月に森岡さんキュレーションによる「そばにいる工芸」展が、銀座資生堂ギャラリーで予定されていました。そのオープニングレセプションで演奏してほしいというありがたいお願いを森岡さんからいただいていたので、その日に発売できるよう、制作を進めました、

これは余談ですが、市販されるCDを作るというのは、当時の私にとって想像外のことでした。当時の私のイメージでは(多くのヴァイオリニストもそうだと思うのですが)、ヴァイオリニストがCDを作るというと、音大を優秀な成績で卒業し、コンクールで賞を取り、さらにリサイタルで経験を積んだトップの人だけに限られた話だと思っていたからです。音大すら行っておらず、趣味の延長でヴァイオリンを弾いていた私には、市販用CDを制作するなど縁がないことだと思っていました。そもそも自分の演奏を録音するということを始めたのも、つい最近でした。この数年で知り合う音楽家の方々が、みなさん「とにかく録音はして、形に残した方がいいよ。今の時代i Phoneのボイスメモでも十分録音できるのだから」とおっしゃってくれたのがきっかけです。それまでは演奏を録音するということすら、自分の意識には上っていませんでした。尊敬している打楽器奏者の方に、最低限そろえるべき機材を教えてもらい、自宅で録音をし始めました。ちなみに、これまでの作品三作の録音場所ははすべて自宅で行われました。

 

 

“scenes”
ひとりひとりが大切にしている情景や記憶=『scenes』
交換留学で訪れたドイツの思い出を中心に心に残る風景を思い浮かべて演奏した楽曲を収録した1st album.
華やかな印象が強いヴァイオリンであるが「日常に寄り添うように」と奏でられた音色や
J.S.Bach時代以前によく用いられた旋律と伴奏に分けられない二つの旋律の重なり合いを
多重録音によりヴァイオリンで表現した新しい試み.
Designer猿山修氏の音楽レーベルより2016年9月発売.
ジャケットデザインも猿山氏が活版印刷により手掛けている.
画家 平松麻氏が音源からのinspirationを受け描き下ろした作品の
一部をカードにしてCDに同封している.

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“requiem”
薩摩琵琶奏者の石引康子氏とのユニット「strings um」によるalbum.
『requiem』=鎮魂 
魂が生まれ「klavier」、混沌とした場所を通り「ganzes」、次第に調和ができて、天に昇っていく「schein」と
Album全体を通して魂の昇天を表現している.
鎮魂から連想される4つのドイツ語「stern星」「seele霊」「geist魂」「schein光」を
ドイツ音名に置き換えて旋律を導き出し、“requiem”のヴァリエーションに規則性を創り出した.
1stalbumと同じくDesigner猿山修氏のレーベルより2018年3月発売.
“requiem”の原曲は猿山氏によるもので、当時飼っていた猫が亡くなってしまいその手向けとしてつくられた.

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“sanctuary”
新村氏が足繁く通った西荻窪の南フランス古道具店「Le Midi」の跡地を引き継いだ古書店「Benchtime books」.
その場所が繋いだ縁によってこのalbumは生まれた.
店主高田氏はお店を営みながらその場所で木版画を制作している
想い出の場所でまた新たな美しいものが生み出されていることを形に残したいと
1曲目「carving」版木を彫る音 3・4曲目「printing」バレンで刷る音等
木版画を制作する音にヴァイオリンを重ねた.
また、店内に訪れた時『自分ひとりの部屋』(ヴァージニア・ウルフ著)を想起されたことをきっかけに
何にも脅かされることなく自分らしくいられる居場所=sanctuaryが
誰にとっても必要なのだという思いが込められている.
2曲目「dialogue with self」は
「他人に刃を向ける前に自分自身に向き合う」という思いで
フィンランドの伝統的な楽器カンテレで奏でられている


高田氏が蝋引きして作製した紙、同じものがひとつとない落ち葉の版画
インドの手織りの布、木屋氏による描き下ろしのイラスト、
500部限定の美しいpackageもこの作品の魅力である.

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